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ブリーチ毛へのパーマ施術は、美容師にとって最も難易度の高いケミカルワークの一つです。一般的に「ブリーチ毛にはパーマはかけられない」と言われるのは、毛髪のケミカルダメージが大きく、コールドパーマの鍵となるシスチン結合が不安定になっているからです。このブログでは、その常識を覆すための、より深いケミカルアプローチについて解説します。
パーマ施術は、主に1剤でシスチン結合を還元・切断し、2剤で再結合させるプロセスです。しかし、ブリーチ毛は還元剤に対する感受性が極めて高く、通常のコールドパーマでは過還元によるタンパク質流出やビビり毛のリスクが飛躍的に高まります。ここで注目すべきが、エアウェーブです。
エアウェーブは、加湿と乾燥を繰り返すことで、パーマの形成を促進する技術です。このプロセスは、シスチン結合の再結合効率を高めるだけでなく、毛髪内部の水分バランスを整え、結合水を保持する効果が期待できます。エアウェーブと、還元力の弱い化粧品登録のコールドパーマ剤を組み合わせることで、薬剤の負担を最小限に抑えつつ、弾力のあるカールを形成することが可能となります。これは、還元剤に頼り切るのではなく、毛髪の物理的な特性を利用したハイブリッドなアプローチなのです。
毛髪の等電点はpH4.5〜5.5の弱酸性です。通常のコールドパーマ剤はアルカリ性(pH8.0〜9.5)で、このアルカリが毛髪を膨潤させ、キューティクルを開き、薬剤を内部に浸透させます。しかし、ブリーチによってキューティクルが剥がれた毛髪では、アルカリによるさらなるダメージは致命的です。
ここで有効なのが、酸性領域でのパーマです。酸性パーマ剤は、チオグリコール酸グリセリル(GMT)やシステアミンといった還元剤を使用し、毛髪を膨潤させることなく、pH5.0〜6.0程度の弱酸性でパーマをかけます。
これにより、キューティクルへの負担をかけずにシスチン結合を穏やかに還元します。さらに、還元後にクエン酸などの酸性の緩衝液で毛髪のpHを等電点に戻すことで、内部のコンディションを整え、ダメージの連鎖を断ち切る中性パーマという技術もあります。酸性の還元剤でパーマをかけ、還元後にpHを下げ、再結合させるという、非常に繊細なコントロールが求められます。
ーチ毛へのパーマ施術で、もう一つの課題は「パサつき」です。
パーマ施術の過程で、毛髪内部の脂質や水分が失われ、質感が損なわれることがあります。この問題を解決するのが、保湿成分を豊富に含んだミルクタイプのパーマ剤です。
ミルクパーマ剤は、主にカチオン界面活性剤や油分を含んでおり、施術中に毛髪表面にツヤを与え、滑らかな手触りを実現します。
これは、単にパーマをかけるだけでなく、同時に毛髪のコンディショニングを行う、いわば「トリートメントパーマ」と呼べる概念です。これらの薬剤は、髪の表面に擬似的なキューティクル層を形成し、光の乱反射を防ぐことでツヤを出すだけでなく、内部の水分蒸発も防ぐ効果が期待できます。
ブリーチ毛へのパーマは、決して「無理」な施術ではありません。
それは、単一の薬剤に頼るのではなく、毛髪のケミカル状態を正確に診断し、エアウェーブによる物理的なアプローチ、酸性〜中性領域でのpHコントロール、そしてミルクパーマ剤による質感向上という、複数の技術を複合的に組み合わせることで初めて可能となる、科学に基づいた緻密なヘアデザインなのです。
安易な施術はさらなるダメージを招きますが、適切な知識と技術があれば、ブリーチ毛にも美しいパーマをかけることができるのです。